アクアドーム
- 建物名称 :
- 熊本総合屋内プール アクアドームくまもと
- 建物分類 :
- 公営運動施設
- 所在地 :
- 熊本県熊本市中央区
- プロジェクト内容 :
- 震災に伴うガラスの割替工事及びシール工事
- 工期 :
- 2016年7月−2017年2月
第1章
形の違う350枚のガラス
ガラスの上を歩いていた。
透き通ったガラスの床の足元からは、20m下にある水面が太陽の光を反射してキラキラ輝いているのが見えていた。
2016年5月新緑も眩しい昼下がりに一本の電話が清永宇蔵商店に入った。
「前の会社で一緒に作ったアクアドームあったでしょう?あそこの天井のガラスが震災で割れちゃって修繕が必要なんですけど、徳丸さんなんとかならないですか?」
アクアドームは1991年に竣工、2000㎡の超大型プロジェクトで、徳丸が前職で担当したプロジェクトだった。
そしてその際の施工会社は現在徳丸が所属している清永と以前に所属していた前社の2社でガラス施工をした施設だった。
なんの時の巡り合わせか今度はあの時一緒にやっていた会社でうけることになるとは。
アクアドームは国際競技で使われたり、大きな式典等でも使用されるメインプールと一般のお客様にも解放されているサブプールに分かれている。
メインプールはサブプールの2倍くらいの大きさで、どちらも上部はガラスで覆われている。
メインプールは整然と形の整ったガラスだが、サブプールのガラスはどれも形が違う設計になっているため、復旧に時間がかかってしまう。
さっそくプロジェクトに取り掛かると、メインプールは1/10程度、およそ110枚のガラスが損傷、サブプールは1/3、およそ350枚のガラスが損傷していた。
メインプールは形が揃っているので、その形のガラスを発注して設置すればよかったのですが、サブプールは1枚いちまい形が違うので、割れたガラスを1枚ずつ取り外して、実測しないといけなかったので、それがとても骨の折れる作業でした。
高所の足場の不安定な現場で、透き通った床の上で、350枚ものガラスを取り外し、実測する作業は非常にストレスがかかり、慣れていないと辛い現場だった。
滑りやすい足場、安全を第一に仕事を進めていった。
第2章
新たに立ちはだかった搬入問題
実測作業もようやく目処がついてきたが、資材搬入についても今回の案件は頭の悩ませどころだった。
通常施設であれば、建物の横に大型クレーンを配置して、そこから資材を屋上に乗せることができるのだが、アクアドームの周辺状況を考慮すると屋根の中心まで資材を運べる200t以上のクレーンを用意すると地盤沈下の可能性がでてしまう。
逆にそれ以下だと資材が作業領域まで届かないという問題だった。
そこで今回の受注元である大手ゼネコンと一緒に様々な搬入シミュレーションを組み、あらゆる角度から搬入の糸口をさがした。
その結果出てきた答えは、天井のガラスを一枚外し、プール中央から内部につけた組み上げ式のクレーンで資材を持ち上げて、一旦置き場を作り、そこからまたウインチ(巻上げ機)を使って、2段階で搬入する方法だった。
どうやったら一番早くかつ安全にプロジェクトを進められるのか考えるのが楽しいです。
その作業はまるで、複雑に絡み合ったパズルを解いていくイメージですね。その時が1番わくわくします。
それと私は会社内の人ともそうですが、協力会社や一緒にプロジェクトを進める会社さんとのコミュニケーションを大切にしますね。
そこで忌憚のない意見を出し、議論しながらプロジェクトを組み立てるとうまくいくのを経験的に学びましたね。
徳丸はいつも自らの携わったプロジェクトを子供のように楽しそうに話す。
第3章
過酷な環境を乗り越える
冬なのに光の照り返しが強く、作業場はサウナ状態、汗が止まらない過酷な上に、足場が悪く、20mというプレッシャーがさらに追い討ちをかける。
それでも徳丸はみんなを鼓舞しながらプロジェクトを進めた。
プロジェクトは次第にスピード感がついてきて、予定より2週間ほど早くに終えることができた。そのおかげで後工程の施工業者の方にも喜んでもらえた。
2017年1月、約7500人の新成人がアクアドームで成人式を迎えていた。
例年会場となっていた熊本市総合体育館が熊本地震の影響で使用することができなかったので、アクアドームで成人式が行われたのだ。
その日、天井から差し込む無数の光が成人たちの振袖をより一層、美しく照らしていた。